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年次報告を怠ると、定款変更ができなくなります

8 時間前
読了時間: 7分

― 政令2026年第30号(PP No. 30 Tahun 2026)の施行と、SABHアクセス遮断の実務リスク

2026年9月


本年6月、『株主総会の議事録、もう「内輪」では済みません』と題したニュースレターをお送りしました。法務大臣規則2025年第49号(Permenkum No. 49 Tahun 2025)により、これまで「内輪」で済ませてきた株主総会と議事録が、国に提出する正式な書類になる、という内容です。(こちら

その続報になります。2026年7月2日、政令2026年第30号(Peraturan Pemerintah No. 30 Tahun 2026)が公布され、公布から30日を経過した8月1日に施行されました。


一見すると、単なる手数料表の改定に過ぎません。しかしこの政令には、今回はじめて設けられた項目が2つあります。年次報告の提出手数料と、「アクセス遮断の解除手数料」です。特に後者が重要で、この年次報告を期限内に怠った場合、定款変更ができなくなります。今回は、日系企業が本当に警戒すべきリスクについて解説します。


【新設された2つの手数料】

政令の別表のうち、年次報告に関係する部分を抜き出すと、以下のとおりです。

項目

会社区分

手数料

年次報告の承認通知の提出

監査義務あり

Rp 500,000

(同上)

監査義務なし

Rp 250,000

アクセス遮断の解除申請

監査義務あり

Rp 2,000,000

(同上)

監査義務なし

Rp 1,000,000

出典:政令2026年第30号 別表 I.A(法務サービス/法人)第11項・第12項

会社区分は、監査義務の有無によって分かれています。インドネシア会社法(UUPT)第68条では、総資産または売上高が500億ルピア以上の会社などに、公認会計士による監査が義務付けられています。多くの日系製造業はこの基準に該当しますので、上位の区分(監査義務あり)で扱われることになるとお考えください。


【金額は、問題の本質ではありません】

解除手数料の200万ルピア。日系企業にとっては、正直なところ誤差の範囲でしょう。ここで注目していただきたいのは金額ではなく、国が「アクセス遮断の解除手数料」という項目を、歳入として制度に組み込んだという事実そのものです。

手数料表に載るということは、その手続きが現実に発生することを前提に、収入として見込まれているということです。つまりアクセス遮断は、「規則には書いてあるが実際には運用されない」たぐいの規定ではなく、執行されるものとして設計されている、と読むべきです。

昨年12月の規則施行にはじまり、本年6月のシステム稼働、そして今回の手数料整備と、順序立てて外堀が埋められてきました。11月からの制裁適用開始に向けて、必要な準備は整った、というのが現在の状況です。


【本当の問題 ― 会社が登記上「凍結」される】

改めて強調したいのは、アクセス遮断が会社に何をもたらすかです。

インドネシアでは、会社の登記に関わる手続きのほぼすべてが、法人管理システム(SABH/AHU Online)を経由します。ここへのアクセスを遮断されると、以下がすべて止まります。

1.    定款変更(社名・住所・資本金・事業目的・KBLIの変更)

2.    取締役(Direksi)・コミサリス(Dewan Komisaris)の変更

3.    増資・減資

4.    株式譲渡、合併その他の組織再編

5.    会社の解散・清算

6.    会社データの変更届出


ここで見落とされやすいのは、工場や事務所の日常業務は止まらない、という点です。従業員は出社できますし、製品は出荷できますし、請求も入金も通常どおりです。止まるのは「会社の法的な形を変える能力」だけです。だからこそ遮断されていること自体に気づきにくく、いざ手続きが必要になった段になって、はじめて発覚する、という事態になりやすいのです。


なお、事業許認可のオンラインシステム(OSS)は、AHUに登録された会社データを参照しています。AHU側のデータが動かせない状態は、許認可の変更や更新にも影響し得ますので、この点もあわせてご留意ください。


【日系企業にとって、なぜ深刻なのか】

日系企業の場合、これらの手続きの多くが、現地の都合ではなく日本本社のスケジュールで動きます。ここが問題です。


たとえば駐在員の交代です。President DirectorやFinance Directorの交代は、本社の人事異動に合わせて実行されます。4月に新任者が着任するのであれば、それに間に合うように取締役の変更登記を済ませておく必要があります。ところがアクセスが遮断されていると、この登記ができません。前任者が帰任した後も登記上は取締役のまま、新任者は法的な代表権を持たないまま、という状態が生じます。銀行手続きや契約書への署名に支障が出るのは、この段階です。

増資も同様です。赤字補填や設備投資のために本社から資本を注入する場合、本社側では取締役会決議を経て送金のスケジュールが組まれています。増資の登記ができなければ、この予定は狂います。

M&Aであれば、さらに深刻です。株式譲渡のクロージングは、SABHでの登記完了を条件とすることが一般的です。遮断が解けるまでクロージングできないということになれば、取引そのものが流れる可能性もあります。


撤退・清算も同じです。清算手続きもSABHを経由しますので、撤退を決めた会社が、年次報告を提出していないために清算に着手できない、という笑えない事態も起こり得ます。


【「払えば解除される」ではありません】

ここが最も誤解されやすい点です。


解除手数料が定められたことで、「遮断されても200万ルピア払えば元に戻る」と理解されるかもしれませんが、そうではありません。この200万ルピアは、あくまで解除申請という行政サービスに対する手数料であって、罰金を払えば自動的に解錠される、という性質のものではないのです。

規則第19条・第20条により、アクセスの解除は、法務総局長に対して解除申請を行い、規則第16条第5項所定の書類、すなわち年次報告を承認した株主総会議事録の公正証書と、年次報告書そのものを提出し、それが受理されてはじめて行われます。

つまり、遮断されてから対応しても、結局は同じ書類一式を作らなければなりません。違うのは、その作業をしている間ずっと会社が凍結されたままだ、という点だけです。しかも遮断された状況では、通常より急いで公証人を手配することになりますので、時間もコストも余計にかかります。「後から払えばいい」という選択肢は、実質的に存在しないとお考えください。


【残された時間は約2か月半】

ここまでの経緯を時系列で整理すると、以下のようになります。

・  2025年12月17日 法務大臣規則2025年第49号 施行

・  2026年6月1日  SABHでの年次報告の受付開始(実際の稼働は6月10日頃)

・  2026年8月1日  政令2026年第30号 施行(手数料の新設)

・  2026年11月   行政制裁の適用開始


2025年12月期の会社の本来の期限は2026年6月末でしたが、システムの整備が間に合わなかったことから、実質的な期限は11月とされています。

さらに実務的な問題として、駆け込み需要があります。年次報告の提出には公証人による公正証書の作成が必須であり、AHU側の確認も少人数の担当者による手作業で行われているという話もあります。期限直前に申請が集中すれば、処理が滞ることは容易に想像がつきます。「申請はしたが受理が間に合わなかった」という事態を避けるためにも、早めの着手が最も現実的な対策です。


【まとめ】

・  政令2026年第30号により、年次報告の提出手数料(監査義務あり50万ルピア/なし25万ルピア)と、アクセス遮断の解除手数料(同200万ルピア/100万ルピア)が新設され、2026年8月1日から施行されている。


・  重要なのは金額ではなく、国が解除手数料を制度化したこと。アクセス遮断は現実に執行されるものと考えるべき。


・  遮断されると、定款変更・役員変更・増資・株式譲渡・清算といった登記手続きが一切できなくなる。日常業務は止まらないため、発覚が遅れやすい。


・  手数料を払えば自動的に解除されるわけではない。結局は同じ書類を揃える必要があり、その間ずっと会社は凍結されたまま。


弊社では、提携する公証人(ノタリス)と連携し、定時株主総会の運営から、年次報告書の作成・レビュー、公正証書の作成、SABHを通じた提出まで、一連の手続きをパッケージでサポートしております。自社の対応状況がご不明な場合も含め、お気軽にお問い合わせください。

なお、本ニュースレターの内容は2026年9月時点の情報に基づくものです。インドネシアでは、規則の運用やシステムの取り扱いが短期間で変わることも少なくありません。最新の情報については、改めてご確認いただくことをお勧めいたします。

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