株主総会の議事録、もう「内輪」では済みません
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― 法務大臣規則2025年第49号(Permenkum No. 49 Tahun 2025)による年次報告(Laporan Tahunan)の提出義務化
更新日:2026年6月
インドネシアに進出している日系企業の多くは、親会社が株式の大半、あるいは全部を保有しています。株主が実質的に親会社だけという「内輪」の構成であるため、毎年の定時株主総会(RUPS Tahunan)をきちんと開催していなかったり、開催はしていても議事録をきちんと作成・保管していなかった、という会社も実は少なくありません。これまでは、取締役による年次の報告(年次報告書)や株主総会の議事録は、どこかの役所に提出するものではなく、あくまで社内の手続きにとどまっていたからです。
ところが、2025年末に公布された法務大臣規則2025年第49号(Peraturan Menteri Hukum No. 49 Tahun 2025、以下「Permenkum 49/2025」)によって、この実務が大きく変わることになりました。今回は、日系企業にとって見落とされがちな、しかし放置すると会社運営そのものに支障をきたしかねない、この新しい義務について解説します。
Permenkum 49/2025とは
Permenkum 49/2025は、2025年12月17日に公布・施行された、有限責任会社(PT)の設立・変更・解散の要件と手続きを定めた規則です。従来の法務人権大臣規則2021年第21号(Permenkumham 21/2021)に代わるもので、PTに関する法務省の各種手続きを刷新しています。なお、近年の省庁再編により、法務人権省(Kemenkumham)から法務省(Kementerian Hukum)が分離したため、規則名も「Permenkumham」ではなく「Permenkum」となっています。
設立や定款変更の手続きにも細かな変更が入っていますが、すでにインドネシアで事業を行っている既存の会社にとって最も影響が大きいのは、新たに導入された「年次報告(Laporan Tahunan)の提出義務」です(第16条)。以下、この点に絞ってみていきます。
これまで:株主総会の議事録は社内手続きにとどまっていた
これまでのインドネシア会社法(2007年第40号法。2023年第6号法〈オムニバス法〉により改正。以下「UUPT」)のもとでは、取締役は事業年度ごとに年次報告書を作成し、これを株主総会(RUPS)に提出して承認を受けることとされていました(UUPT第66条)。もっとも、これはあくまで「取締役が株主に対して経営の責任を果たす」ための社内手続きであり、株主による承認をもって取締役が当該年度の経営責任を免除される(acquit et de charge)、という位置づけのものでした。
重要なのは、この年次報告書や株主総会の議事録を、法務省などの役所に提出する義務は、原則として存在しなかったということです。金融業など一部の規制業種を除けば、外部の規制当局への報告は求められておらず、社内で株主総会を開催し、議事録を作成・保管しておけば、それで足りていました。
冒頭で述べた通り、日系企業の場合は株主が親会社だけということも多く、「内輪」であるがゆえに、株主総会の開催や議事録の作成自体を省略してしまっている会社も見受けられました。
これから:年次報告を国(法務省)に提出する義務
Permenkum 49/2025は、この実務を大きく変えます。資本会社(Perseroan Persekutuan Modal。複数の株主が出資して設立する通常のPTで、日系のPMAはこれに該当します)の取締役は、株主総会で承認された年次報告(Laporan Tahunan)を、法務大臣に対して電子的に提出しなければならなくなりました(第16条)。提出は、法人管理システム(SABH=Sistem Administrasi Badan Hukum、いわゆるAHU Online)を通じて行います。
ポイントは、これがすべてのPT・PMAに適用されることです。その年度に定款変更などの登記事項の変更が一切なかった会社であっても、年次報告の提出は必要になります。これまで「内輪」で済ませてきた株主総会と議事録が、はじめて国に提出する正式な書類になる、ということです。
手続きの流れと2つの期限
具体的な手続きと期限は、以下の通りです。
1. コミサリスの検討と株主総会の承認:取締役は、年次報告書を作成し、コミサリス(Dewan Komisaris、監査役会に相当)の検討を経たうえで、株主総会(RUPS)に提出して承認を得ます。これは、事業年度終了後6か月以内に行う必要があります(第16条第1項)。12月決算の会社であれば、原則として6月末までということになります。
2. 公正証書(akta notaris)の作成:株主総会で年次報告を承認した決議は、その議事録(risalah RUPS)を含む公正証書として、公証人(ノタリス)に作成してもらいます。
3. SABHを通じた提出:公証人は、当該公正証書に署名がなされた日から30日以内に、SABHを通じて法務大臣に提出します(第16条第3項)。提出が受理されると、法務省(法務総局長)から電子的な受理証が発行されます。
つまり、「事業年度終了から6か月以内に株主総会で承認」「公正証書の署名から30日以内にSABHで提出」という2段階の期限を意識する必要があります。
年次報告(Laporan Tahunan)に記載する内容
提出する年次報告には、少なくとも以下の事項を記載する必要があります(第16条第6項)。
a. 財務諸表(少なくとも、前年度と比較した当該年度末の貸借対照表、当該年度の損益計算書、キャッシュフロー計算書、株主資本等変動計算書、およびこれらの注記)
b. 会社の事業活動に関する報告
c. 社会・環境責任(CSR)の実施状況に関する報告
d. 当該年度に発生し、事業活動に影響を与えた問題の詳細
e. コミサリスが当該年度に実施した監督業務に関する報告
f. 取締役(Direksi)およびコミサリスの氏名
g. 取締役の給与・手当、ならびにコミサリスの給与・報酬・手当(当該年度分)
ここで日系企業として注意したいのは、財務情報だけでなく、取締役・コミサリスの報酬額までもが提出対象に含まれている点です。これまで社内にとどめていた役員報酬の情報が、国のシステムに登録されることになります。記載にあたっては、開示の原則に配慮しつつも、戦略上センシティブな情報の扱いには留意が必要です。
なお、個人事業に近い「個人PT(Perseroan Perorangan)」の場合は、提出するのは財務諸表のみで足りますが(第27条)、日系のPMAは上記の資本会社に該当しますので、より広範な年次報告の提出が求められる点にご留意ください。
提出しないとどうなるか ― 罰則とその影響
提出義務を怠った場合、資本会社には行政制裁が科されます(第17条・第18条)。まず期限を超過した時点で、SABH上の通知または電子メールにより「書面による警告(teguran tertulis)」が発せられます。そして、その通知日から30日以内に義務を履行しない場合には、「アクセスの遮断(pemblokiran akses)」という制裁に進みます。
このアクセス遮断が、実務上はかなり重い意味を持ちます。インドネシアでは、会社の各種法務手続きの多くがSABHを通じて行われるためです。アクセスを遮断されると、定款変更(社名・住所・資本金などの変更)、取締役・コミサリスの変更、増資、組織再編といった、登記を伴うコーポレートアクションが一切できなくなります。いわば、会社が法的に「凍結」された状態に陥るわけです。M&Aや資本異動を予定している会社にとっては、特に深刻なリスクとなります。
ただし、過度に不安をあおる必要はありません。資本会社(PMA)に対する制裁は、あくまでアクセス遮断までであり、法人格そのものが剥奪されるわけではありません。法人格の剥奪(pencabutan status badan hukum)という、より重い制裁が定められているのは「個人PT」に対してであって、通常のPMAには適用されません。とはいえ、アクセス遮断だけでも会社運営に与える影響は小さくありませんので、軽視は禁物です。
インドネシアの「あるある」― 肝心のシステムが間に合っていなかった
ここまで読んで、「では早速、提出の準備を」と思われたかもしれません。ところが、ここからがいかにもインドネシアらしい話です。
Permenkum 49/2025自体は2025年12月に施行されたものの、肝心の提出先であるSABH(AHU)のシステムが追いついておらず、しばらくの間、実際には年次報告を提出しようにも提出できない、という状態が続いていました。規則だけが先に走り、運用が後からついてくるというのは、インドネシアではよくあることです。
法務総局(Ditjen AHU)は、公式の案内として、SABHを通じた年次報告の提出を2026年6月1日から開始するとアナウンスしていました。もっとも、弊社が把握している限り、システムが実際に機能し始めたのは、ようやく6月10日頃のことです。加えて、提出されたフォームは現状ごく少数の担当者によって手作業で確認されているとの情報もあり、処理に時間がかかったり、公証人費用が上昇したりといった実務上の負担も生じ始めています。
12月決算の会社の期限 ― 11月末までの救済措置
では、2025年12月期(12月決算)の会社は、いつまでに提出すればよいのでしょうか。
原則論でいえば、前述の通り、事業年度終了後6か月以内、すなわち2026年6月末までに株主総会での承認・提出を済ませる必要があります。実際、税務・法務の各方面でも、2025事業年度の年次報告の期限は2026年6月30日とされています。
しかし、上記の通りシステムが間に合っていなかったことから、救済措置が設けられています。法務総局(Ditjen AHU)は、行政制裁の適用開始を2026年11月からとすることを公式に表明しており、弊社がAHUから直接確認した情報でも、2025年12月期の会社については11月末までに提出すれば足りる、との言質を得ています。つまり、実質的には2026年11月末までに手続きを完了すれば、制裁を受けることはないと考えられます。
とはいえ、期限に余裕があるからと油断するのは禁物です。特に、これまで株主総会の開催や議事録の作成を省略してきた会社は、定時株主総会の開催、所定の内容を満たす年次報告書の準備、公証人と連携した公正証書の作成、そしてSABHを通じた提出という一連の手続きを、ゼロから整える必要があります。前述の通りシステム側の処理にも時間を要する状況ですので、11月末ぎりぎりではなく、早めに着手されることを強くお勧めします。
まとめ
今回のPermenkum 49/2025は、これまで「内輪」の社内手続きにとどまっていた株主総会と年次報告を、国に提出する正式な義務へと変えるものです。背景には、AHUに登録された数百万社にのぼる会社データを最新かつ正確なものに保ち、いわゆる「ペーパーカンパニー」を減らしていこうという、インドネシア政府全体のコンプライアンス強化の流れがあります。
日系企業にとっての実務対応をまとめると、以下の通りです。
・ 定時株主総会を実際に開催し、議事録を作成すること。「内輪」だからと省略してきた会社は、特に要注意。
・ 第16条第6項所定の7項目を満たす年次報告書を準備すること(役員報酬の記載も含む)。
・ 公証人と連携し、株主総会議事録を含む公正証書を作成すること。
・ SABHを通じて、公正証書の署名から30日以内に提出すること。
・ 2025年12月期の会社は、救済措置により実質的な期限は11月末。ただしシステムの処理遅延を見越し、早めに着手すること。
弊社では、株主総会の運営や年次報告書の作成・レビュー、公証人との調整、SABHを通じた提出まで、一連の対応をサポートしております。ご不明な点や、自社の対応状況についてのご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
なお、本ニュースレターの内容は2026年6月時点の情報に基づくものです。インドネシアでは、規則の運用やシステムの取り扱いが短期間で変わることも少なくありません。最新の情報については、改めてご確認いただくことをお勧めいたします。




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