top of page

税務当局のロイヤルティ否認は覆る?133億ルピアの税務調整が全額取り消された理由

  • 2 日前
  • 読了時間: 8分

今回は、関連会社に対するロイヤルティ支払に関する税務裁判所判決をご紹介します。

本件は、2020年度法人税において、関連会社へ支払ったロイヤルティ13,349,869,356ルピアについて、税務当局が移転価格税制に基づき損金算入を否認した事案です。

裁判所は、税務当局が比較対象契約の一部を除外した判断には一貫性がなく、ロイヤルティ率5%は独立企業間価格(Arm's Length Principle)の範囲内であると認定しています。その結果、税務当局による損金算入否認は認められず、納税者が全面勝訴となりました。


背景

税務当局は、納税者が支払ったロイヤルティ率5%は、税務当局が選定した比較対象取引のレンジを超えており、独立企業間価格(Arm's Length Price)ではないとして更正を行いました。また、納税者の移転価格文書(TP Documentation)に記載された比較対象契約のうち2件については、比較可能性(Comparability)を満たさないとして比較対象から除外しました。


一方、納税者は、

  • 当該ロイヤルティは、Technical Information、Know-how、Patent、Utility Modelのライセンス契約に基づく正当な支払いであること。

  • 税務当局が比較対象契約を除外した理由には一貫性がなく、不合理であること。

  • 税務当局はロイヤルティ率を一律5%として計算しているが、実際には契約上の控除項目があるため、「実効ロイヤルティ率は純売上高の3.5%」に過ぎないこと。

を主張しました。


本件のポイント

ロイヤルティに関する移転価格紛争では、

  • 比較可能性分析(Comparability Analysis)の精度 

  • 比較対象採用・除外の一貫性

  • ロイヤルティ算定基礎の正確な理解

が勝敗を左右するという点です。

税務当局がロイヤルティ計算の基礎や比較対象契約を誤って理解した場合、その更正は裁判で覆される可能性があります。


判決概要

判決番号

PUT-000676.15/2024/PP/M.XVA(2025年)

会社名

PT Nusa Toyotetsu


争点

本件では、税務当局が実施した13,349,869,356ルピアのロイヤルティに関する税務調整(正の税務調整)が争われました。

項目

税務当局(異議決定)

納税者

争点額

正の税務調整

21,889,116,704

8,539,247,348

13,349,869,356


税務当局(被控訴人)の主張

税務当局は、関連会社へのロイヤルティ支払について、移転価格税制に基づく独立企業間価格(Arm's Length Principle)の検証を実施しました。

その結果、納税者がTP Documentationで採用した比較対象契約6件のうち、2件を比較対象として認めませんでした。


① Axial Vector Engine Corporation

税務当局は、この契約は飛行体および個人用航空機(VTOL)に関する技術ライセンスであり、納税者が製造している四輪乗用車部品とは業種・製品が異なるため、比較対象にはできないと判断しました。


② Temple University

こちらについても、税務当局は契約にサブライセンス(再許諾)権が含まれているため、納税者の契約とは条件が異なると判断しました。

さらに、対象技術は石油・ガス輸送機器や機械設備向けであり、自動車部品とは異なることから、比較対象にはならないと主張しました。


比較可能性(Comparability)の5要素

税務当局は、比較対象を採用するためには、

以下5つの比較要素を満たす必要があると説明しました。

  1. 商品・サービスの特性

  2. 機能・資産・リスク分析

  3. 契約条件 

  4. 経済条件 

  5. 事業戦略 

これらが一致しない場合、

比較対象として利用できないと主張しました。


税務当局によるロイヤルティ率

税務当局が採用した比較対象契約は4件でした。

ライセンサー

平均ロイヤルティ率

Adrian Corbett

3.00%

Advanced Technologies Incorporated

5.00%

John W Martin

3.00%

Trustee of Dartmouth College

2.50%

四分位レンジは

  • 最低 2.0%

  • 第1四分位(Q1) 2.88%

  • 中央値(Q2) 3.00%

  • 第3四分位(Q3) 3.50%

  • 最大 5.00%

となりました。

したがって、中央値(3%)が独立企業間価格であると判断しました。


税務当局の更正計算

項目

納税者

税務当局

純売上高

913,136,206,167

913,136,206,167

輸入部品等控除後のロイヤルティ対象売上

667,493,467,795

667,493,467,795

ロイヤルティ率

5%

3%

ロイヤルティ費用

33,374,673,390

20,024,804,034

その結果、13,349,869,356ルピアの税務調整を実施しました。


控訴人(納税者)の主張

控訴人は、税務当局が維持した13,349,869,356ルピアの正の税務調整について不服があるとして、控訴を提起しました。

その理由は、税務当局が移転価格分析において、控訴人のTP Documentationに記載された比較対象契約6件のうち4件しか認めず、2件を不当に除外したためです。

控訴人はまず、会社概要およびロイヤルティ取引の背景について説明しました。


会社概要およびロイヤルティ取引

PT Nusa Toyotetsuは、自動車用金属部品を製造するメーカーです。

顧客は自動車メーカー(OEM)であり、同社が製造した部品はOEMメーカーに供給され、最終的に四輪車へ組み込まれた状態で消費者へ販売されます。

各部品には異なる設計・仕様が必要であり、高度な製造技術が要求されます。

1996年7月1日、控訴人はToyoda Iron Works Co., Ltd(TIW)Technical Assistance Agreement(TAA)を締結しました。

この契約により、控訴人はインドネシア国内において以下の無形資産を独占的に使用する権利を取得しました。

  • Technical Information(技術情報)

  • Know-how(ノウハウ)

  • Patents(特許)

  • Utility Models(実用新案)

これらのライセンスがなければ、控訴人は顧客が要求する品質・設計水準の自動車部品を製造することはできませんでした。

TIWは契約に基づき、書面・口頭その他の方法により次の情報を提供していました。

  1. 製品に関する技術情報(取扱説明書・マニュアル等)

  2. 製品設計・開発・バリュー分析のための支援

  3. 製造管理および品質管理に関するノウハウ

控訴人は、このような技術供与の対価としてロイヤルティを支払っており、当該支払については適切に税務処理および納税を行っていると説明しました。


実効ロイヤルティ率は5%ではない

控訴人は、税務当局がロイヤルティ率を一律5%として計算したことは誤りであると主張しました。

契約では、売上高から

  • TIW向け販売

  • 日本その他から輸入した部品

  • 国内購入部品

などを控除した金額に5%を乗じる仕組みとなっています。


そのため、2020年度に実際に支払われたロイヤルティは33,374,673,390ルピアであり、

純売上高に対する実効ロイヤルティ率は3.5%でした。

税務当局は、この控除項目を考慮せず、単純に純売上高全体へ5%を適用したため、更正額そのものが誤っていると主張しました。


比較対象契約2件の妥当性

控訴人は、税務当局が除外した2件についても、比較可能性を十分満たしていると説明しました。

具体的には、

  • 独占ライセンス

  • ロイヤルティ計算方法

  • 無形資産の種類

  • 技術供与内容

  • 業界・製品

はいずれも十分比較可能であると主張しました。


Agreement No.33373(Axial Vector Engine Corporation)

税務当局は、航空機用技術だから比較できないと主張しました。

しかし控訴人は、契約内容を詳細に確認すると、ライセンス対象はエンジン技術そのものであり、ライセンシーへ独占使用権を付与し、特許・改良技術の権利関係もTIWとの契約と非常によく似ていると説明しました。


Agreement No.70496(Temple University)

税務当局は、サブライセンス権があるため比較できないと主張しました。

しかし、契約を詳しく見ると、Temple Universityは特許権・技術情報について

独占ライセンスを付与しており、ライセンシーには製造・販売・輸入等の権利も認めています。

さらに、控訴人自身のTIWとの契約でも「Licensor shall grant to Licensee an exclusive license...」という独占ライセンス条項が存在しており、実質的には非常に類似した契約であると説明しました。

したがって、税務当局がTemple契約のみを除外した理由には合理性がないと主張しました。


OECD移転価格ガイドライン

控訴人は、OECD Transfer Pricing Guidelines 2010 第6.23項を引用しました。

そこでは、無形資産のライセンス取引については、CUT法(Comparable Uncontrolled Transaction Method)を利用できること、

さらに、完全一致する比較対象が存在しない場合には、同一業界に属する近似比較対象(Inexact Comparable)を利用することも認められていると説明されています。

また、近似比較対象を利用する場合には、四分位レンジ(Interquartile Range)を用いることによって比較可能性の差異を吸収できるとしています。


比較対象の選定方法

DDTC(Danny Darussalam Tax Center)は、独立した分析機関として、KtMineデータベースを利用し、以下の条件で比較対象契約を抽出しました。

  • Manufacturing / Process Intangible

  • 独占ライセンス

  • Transportation Equipment Industry

  • 自動車部品産業

  • ロイヤルティ算定基礎は純売上高

これらは、PT Nusa Toyotetsuと非常に高い比較可能性を有すると説明しました。


ロイヤルティ率

契約上のロイヤルティ率は5%ですが、控除項目を考慮すると、実効ロイヤルティ率は3.5%となります。


裁判所(Majelis Hakim)の判断

裁判所は、まずAxial Vector Engine Corporationについては、航空機関連技術であり、四輪自動車部品とは産業特性が異なるため、税務当局が比較対象から除外した判断は妥当であると認めました。

一方、Temple Universityについては、税務当局の判断を認めませんでした。理由は、税務当局自身が比較対象として採用したAdrian Corbett契約にも、サブライセンス条項が存在していたためです。つまり、Temple契約のみを除外したことは判断基準に一貫性がないと裁判所は判断しました。


ロイヤルティ率の妥当性Temple契約を含めた5件の比較対象契約で再計算すると、四分位レンジは

  • 第1四分位(Q1) 3%

  • 第3四分位(Q3) 5%

となりました。

控訴人が支払ったロイヤルティ率5%は、ちょうど四分位レンジ内に収まるため、「独立企業間価格(Arm's Length Principle)を満たしている」と判断しました。


裁判所の最終結論

項目

争点額

維持

取消

正の税務調整

13,349,869,356

0

13,349,869,356

裁判所は、税務当局による13,349,869,356ルピアの税務調整を全額取り消しました。


判決のまとめ

裁判所は、税務当局が比較対象契約を除外した理由のすべてが正当とはいえないと判断しました。

確かに、Axial Vector Engine Corporationについては産業特性の違いから比較対象とは認められませんでしたが、Temple Universityについては、税務当局が別の比較対象では同様のサブライセンス条項を認めていたにもかかわらず除外しており、その判断には一貫性がないとされました。

Temple Universityを含めた5件の比較対象契約に基づき再計算した結果、第1四分位(Q1)は3%、第3四分位(Q3)は5%となり、納税者が支払ったロイヤルティ率5%はこの範囲内に収まることから、独立企業間原則(Arm's Length Principle)を満たしていると認定されました。

そのため、税務当局による13,349,869,356ルピアの正の税務調整はすべて取り消され、納税者が全面勝訴となりました。


コメント


bottom of page