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対応的調整はPLIに反映できるのか?税務当局のTNMM計算を裁判所が否定した事例

  • 2 日前
  • 読了時間: 10分

今回は、対応的調整(Corresponding Adjustment)を利益水準指標(PLI)の計算に反映できるか、また、TNMM(取引単位営業利益法)において企業全体(Whole Entity)とセグメント分析のどちらを採用すべきかが争われた税務裁判所判決をご紹介します。

結論として、裁判所は、税務当局が関連会社に対する対応的調整をそのまま控訴人のPLI(ROTC)の計算へ反映したことは適切ではないと判断しました。さらに、更正額を輸出売上と輸入原材料購入へ配分した方法についても実際の取引実態と一致しないとして否定し、更正額を大幅に見直しました。


本件では、税務当局は、関連会社であるPT PDITおよびPT BDUに対する税務調査結果を反映した対応的調整を控訴人のROTC計算へ組み込み、利益率が独立企業間レンジを下回るとして多額の移転価格更正を実施しました。また、納税者が採用した輸出売上と国内売上のセグメント分析を認めず、企業全体(Whole Entity)を対象としてTNMMを適用する一方、更正額は輸出売上および輸入原材料購入のみに配分していました。

これに対し裁判所は、対応的調整をPLIへ反映すると、比較対象企業との比較に用いるべき商業会計ベースの利益ではなく税務調整後の利益を評価することになり、独立企業間原則(Arm's Length Principle)の比較可能性を損なうと判断しました。また、更正額の配分方法についても、実際の関連者取引の内容を反映していないとして税務当局の計算方法を認めませんでした。

本件は、対応的調整の取扱い、TNMMにおけるPLIの算定方法、Whole Entity分析とセグメント分析の考え方、さらに更正額の配分方法について、実務上非常に参考となる判決です。


税務当局(被控訴人)の主張

更正内容は以下のとおりである。

項目

納税者(Rp)

税務当局(Rp)

更正額(Rp)

A. 売上高

16,822,715,572,481

16,950,232,648,909

127,517,076,428

B. 売上原価

15,689,295,939,432

14,905,804,514,099

783,491,425,333

粗利益

1,133,419,633,049

2,044,428,134,810


C. 営業費用

1,036,315,086,309

1,253,625,185,751

-217,310,099,442

純利益

97,104,546,740

790,802,949,059


A. 売上高127,517,076,428ルピアの更正

項目

内容

金額

A.1

PT PDITに対する原材料販売に係る対応的調整

▲360,582,650,527

A.2

海外関連会社への原材料輸出売上

488,099,726,955

合計


127,517,076,428

A.1

PT Perusahaan Dagang dan Industri Tresno(PT PDIT)の2019年度税務調査では、控訴人から購入した原材料取引について、独立企業間原則(PKKU)の適用に基づく一次調整(Primary Adjustment)が行われた。


A.1およびC

税務当局は、利益水準指標(PLI)としてROTC(またはFCMU)を採用する点については、納税者と同じ見解であった。

ROTCを計算するにあたり、税務当局は以下のマイナス調整を実施した。


・Tresno社向け売上の減額360,582,650,527ルピア

・BDU社へのリチャージ費用(営業費用)の減額217,310,099,442ルピア

これらの減額は、Tresno社およびBDU社側で行われた更正に対応する「対応的調整(Corresponding Adjustment)」である。

その目的は、経済的二重課税(Economic Double Taxation)を防止し、関連会社間取引を行う国内納税者に対して公平な取扱いを行うためである。


B. 原材料輸出売上488,099,726,955ルピアおよび輸入原材料購入783,491,425,333ルピアの更正

税務当局は、独立企業間原則の検証結果に基づき、

・輸出売上

・輸入原材料購入

についてプラス更正を行った。


税務当局は、納税者が損益計算書を

・国内売上

・輸出売上

の2セグメントに区分したことを認めなかった。


税務当局は、対象企業は控訴人自身であり、企業全体(Aggregate)の取引についてTNMMを適用すべきと判断した。


その理由は以下のとおりである。

・売上の大部分が関連会社向けであるため、独立したセグメントとして区分することはできない。

・国内販売においてBDU社をテスト対象企業(Tested Party)としたことも適切ではない。

国内売上のうちBDU向けは約60%にすぎず、残りはBINI社およびTresno社への原材料販売である。

・関連会社取引は非常に複雑であり、関連会社から輸入した原材料を加工した後、国内外の関連会社へ販売している。

このため、企業全体を対象として分析する方が適切である。

税務調査の結果、Tresno社およびBDU社の対応的調整を反映した後の控訴人のROTCは▲15.41%

となり、第1四分位(Q1)を下回った。

したがって、

関連会社取引は独立企業間原則を満たしていないとして、税務当局は中央値(Q2)4.34%まで利益率を引き上げる更正を行った。


さらに、その更正額を

・原材料輸出売上

・輸入原材料購入

へ配分した。


納税者(控訴人)の主張

A.1およびC

売上高360,582,650,527ルピアおよび営業費用217,310,099,442ルピアのマイナス調整は、

Tresno社およびBDU社に対する2019年度税務調査の結果生じた対応的調整にすぎない。

したがって、これらの調整は、Tresno社およびBDU社が一次調整(Primary Adjustment)について提起している控訴の結果に全面的に依存すべきである。

A.2

納税者は、海外関連会社への原材料輸出売上488,099,726,955ルピアの更正について不服を申し立てた。


その理由は以下のとおりである。

売上高について

・納税者は適正な帳簿を作成し、

すべての収入を事実どおり申告している。

また、財務諸表はAmir Abadi Jusuf, Aryanto, Mawar & Rekanによる監査を受け、重要な点において適正であるとの無限定適正意見を取得している。


したがって、売上は適正に計上されている。

・海外関連会社へ販売した原材料は、ブレンドたばこおよびその他原材料であり、VAT(付加価値税)の課税対象として申告済みである。

VAT法第2条第1項では、特殊関係により販売価格が影響を受ける場合には、市場価格を課税標準とすると規定されている。

同条の解説では、特殊関係により価格が市場価格より低く設定される可能性があるため、

税務総局長は市場価格へ修正できるとしている。

しかし、税務当局はVAT課税標準額(DPP PPN)については一切更正していない。

つまり、税務当局自身が、納税者の売上価格を市場価格として認めていることになる。

・488,099,726,955ルピアの更正額は、納税者が実際に受け取った経済的利益ではない。

したがって、輸出売上更正は不当である。


・調査過程において、納税者はTransfer Pricing Documentationを含むすべての資料を提出し、

関連会社取引が独立企業間価格であることを十分説明している。


A.2およびB

原材料輸出売上488,099,726,955ルピアおよび輸入原材料購入783,491,425,333ルピアの更正について


税務当局による計算分析について

納税者と税務当局の間では、以下の点について争いはない。


a. 納税者の事業特性

税務調査結果通知書(SPHP)において、税務当局は納税者の機能をLicensed Manufacturer(ライセンス製造業者)であると認めている。


b. 移転価格分析手法の選定

納税者は関連者間取引の独立企業間価格を検証する方法として**TNMM(取引単位営業利益法)**を採用した。

税務当局もSPHPにおいて同様にTNMMを採用している。

したがって、本件の争点はTNMMそのものではなく、その適用方法にある。

税務当局はTNMMの再計算を実施し、納税者はその計算方法に異議を唱えている。


A. 財務データおよびテスト対象企業

2019年度について、納税者は損益計算書を

・国内売上

・輸出売上

の2つに区分(セグメンテーション)した。

その理由は以下のとおりである。

国内販売については、PT BDUが限定的リスクディストリビューター(Limited Risk Distributor)として機能しており、国内関連者取引では納税者よりも機能・リスクが単純であるため、

テスト対象企業(Tested Party)として適切である。

また、PT BDUの財務データを利用して利益率を算定することが可能である。

一方、輸出販売については、輸出部門ごとの財務データが存在するため、

納税者自身をテスト対象企業とした。

税務当局は、企業全体(Whole Entity)の損益計算書を用いて分析した。


納税者のセグメント別損益

項目

国内販売

輸出販売

合計

売上高

4,517,267,583,348

1,436,619,903,722

5,953,887,487,070

売上原価

4,802,256,119,436

1,112,389,352,052

5,914,645,471,488

売上総利益

▲284,988,536,088

324,230,551,670

39,242,015,582

販売費

64,944,518,725

27,343,021,944

92,287,540,669

一般管理費

246,687,599,828

103,860,719,703

350,548,319,532

営業費用(純額)

9,643,276,065

4,060,024,067

13,703,300,132

その他損失

16,509,440,403

6,950,825,106

23,460,265,509

営業費用合計

337,784,835,021

142,214,590,820

479,999,425,842

EBIT

▲622,773,371,109

182,015,960,850

▲440,757,410,260

FCMU/ROTC

▲12.12%

14.51%

▲6.89%


PLI(利益水準指標)の選定

TNMMの適用において、納税者は、

・国内販売:ROS(売上高営業利益率)

・輸出販売:FCMU/ROTC

を採用した。

一方、税務当局は、企業全体の損益計算書についてFCMU/ROTCを採用した。


比較対象企業

納税者は、国内販売についてOSIRISデータベースから9社、

輸出販売について11社を比較対象企業として選定した。

税務当局も、輸出販売については同じ11社を採用した。


独立企業間レンジ

2016~2018年度の加重平均四分位レンジは以下のとおりである。


国内販売(ROS)

Q1:1.11%

Q2:1.14%

Q3:1.68%


輸出販売(FCMU/ROTC)

Q1:3.19%

Q2:4.34%

Q3:5.82%

税務当局も、この輸出販売用の四分位レンジを使用している。


PLI計算方法

税務当局は、納税者の利益率を計算する際、PT PDITおよびPT BDUに対する対応的調整(Corresponding Adjustment)を反映させた。

具体的には、


a. PT PDITに対する税務調査結果に基づき、

原材料販売360,582,650,527ルピアを売上から減額した。

b. PT BDUに対する税務調査結果に基づき、A&P費用および給与リチャージ217,310,099,442ルピアを営業費用へ加算した。


PLI計算比較

項目

納税者

税務当局

売上高

5,953,887,487,070

5,953,887,487,070

PT PDIT対応的調整

▲360,582,650,527

売上原価

5,914,645,471,488

5,914,645,471,488

売上総利益

39,242,015,582

▲321,340,634,945

販売費

92,287,540,669

92,287,540,669

一般管理費

350,548,319,532

350,548,319,532

PT BDU対応的調整

217,310,099,442

営業費用(純額)

13,703,300,132

13,703,300,132

その他損失

23,460,265,509

23,460,265,509

営業費用合計

479,999,425,842

697,309,525,284

EBIT

▲440,757,410,260

▲1,018,650,160,229

FCMU/ROTC

▲6.89%

▲15.41%

税務当局は、企業全体を対象とした損益計算書に加え、PT PDITおよびPT BDUの対応的調整を反映したことで、ROTCを▲15.41%と算定した。

その結果、中央値(Q2)の4.34%まで利益率を引き上げるため、19.75%分の更正を実施し、その更正額を輸出原材料売上および輸入原材料購入へ配分した。


納税者の反論

納税者は、対応的調整をPLI計算へ反映させたことについて以下の理由から反対した。

・PT PDITに対する360,582,650,527ルピアの売上減額は、PT PDIT側で行われた一次調整に対応する調整にすぎない。PT PDIT自身もその更正に同意しておらず、現在控訴中である。

・PT BDUに対する217,310,099,442ルピアについても同様であり、現在係争中である。

・対応的調整についての詳細な主張は本控訴状A.1およびCで既に述べた。

・OECD移転価格ガイドライン附属書Ⅱによれば、独立企業間原則の分析に使用すべきデータは、監査済み財務諸表または商業会計上の財務諸表であり、税務調整後の財務数値ではない。

・税務調整後の数値をPLIへ反映すると、比較対象企業のOSIRISデータ(商業会計ベース)との比較可能性が失われる。


したがって、税務調整をPLIへ反映する税務当局の計算方法は、比較可能性原則に反し、納税者に不公平な結果をもたらす。


輸出売上への配分について

仮にTNMMの適用方法を前提としても、更正額を輸出売上へ配分したこと自体が不当である。

その理由は、

・輸出部門のFCMUは14.51%であり、比較対象企業の四分位レンジを上回っている。

つまり、輸出取引自体は独立企業間原則を満たしている。

・TP Documentationによれば、関連会社向け原材料販売の大部分は国内販売であり、海外向け輸出は17.50%にすぎない。


2019年度関連会社向け原材料販売

国内

Tresno(インドネシア):20.12%

BINI(インドネシア):10.42%


海外

BAT Marketing Singapore:7.15%

BAT Korea:4.84%

BAT PNG:2.20%

BAT Singapore:1.71%

BAT GLP(英国):0.65%

BAT Fiji:0.36%

SIT(ソロモン諸島):0.28%

BAT Samoa:0.20%

BAT Bangladesh:0.07%

PTCL(パキスタン):0.04%

CTC(スリランカ):0.002%

BAT Cambodia:0.0004%

原材料売上合計:48.05%

総売上:100%

さらに、更正額を輸出売上へ配分したことは、Taxable-Deductible原則に伴う国内関連会社側でのマイナス調整を回避するために、

税務当局が意図的に輸出取引へ配分したものと考えられる。また、輸出取引が租税回避目的であるという税務当局の主張も、客観的根拠ではなく一方的な推測にすぎない。

したがって、488,099,726,955ルピアの輸出売上更正、ならびに127,517,076,428ルピアの売上高更正はいずれも取り消されるべきである。


B. 売上原価783,491,425,333ルピアの更正

納税者は以下の理由から更正に反対した。

・費用は事実どおり計上され、独立監査も受けている。

・輸入原材料にはVATが課税され、税務当局も当初購入価格を課税標準として認めている。

・更正配分に関する反論はA.2で述べたとおりである。

・輸入原材料購入は総購入額の27.30%にすぎない。

・輸入購入のみに更正を配分したことは、

国内関連会社側で必要となるマイナス調整を回避するためである。


裁判所の判断

1. 裁判所は、PT BDUおよびPT PDITに係る対応的調整をPLI計算へ組み入れることを認めなかった。対応的調整をPLI計算へ反映すると、本来検証すべき商業ベースの営業実績ではなく、税務調整後の数値を評価することとなり、独立企業間原則の適用を歪めるためである。


2. 裁判所は、税務当局が輸出原材料売上42.41%、輸入原材料購入57.59%として更正額を配分したことも、実際の関連会社取引の内容と一致しないと判断した。適切な配分割合は、

・輸出原材料売上:10.28%

・輸入原材料購入:12.96%

であると認定した。


3. 裁判所は、

税務当局・納税者双方が採用したローカルファイルの比較対象企業を用い、

中央値(Median)4.34%に基づき再計算を行った。


再計算結果

・2019年度控訴人ROTC(企業全体):▲6.89%

・比較対象中央値(Q2):4.34%

・必要調整率:11.23%

配分結果

・輸出原材料売上10.28% × 11.23%=1.15%

・輸入原材料購入13.96% × 11.23%=1.57%


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