top of page

無形サービス税務紛争における勝利を支えたのは、強力な文書化と明確なメリットの証拠

  • 2 日前
  • 読了時間: 11分

今回は、PT SGS Indo Assay Laboratories が SGS Group Management S.A. との無形取引(商標、ネットワーク、技術サービス、管理サービス)に関して争われた、2017年度の移転価格税制に関する税務裁判所の判決をご紹介します。

本件では、主に2つの争点がありました。


  1. 税務当局(被控訴人)は、無形サービス費用について、実際に発生したコストに一定のマークアップを加える方式(actual cost plus mark-up)で計算すべきだと主張しました。しかし、納税者(控訴人)は、8%の料率は契約に基づくものであり、すでにローカルファイルで検証されていると説明しました。

  2. 税務当局は、技術サービス費用について実際の利益がないと判断し、損金算入を認めませんでした。これに対し、納税者は、PT Pamapersada との長期契約を含め、SGS Kazakhstan を通じたサービス提供の証拠を提示しました。


最終的に、税務裁判所は控訴人の主張を全面的に認め、すべての更正を取り消しました。

なお、本判決は法的拘束力を持つ先例ではありませんが、ここで議論された論点は、インドネシアで事業を行う日本企業の移転価格税制実務でも広く生じる問題であり、実務上の参考事例として有益です。


詳細な説明は以下のとおりです。判決番号:PUT-005158.15/2020/PP/M.IVB(2025年)対象:PT SGS Indo Assay Laboratories(2017年度課税)

課税当局による更正は、プラスの税務調整額 USD 174,829 でした。この更正は、SGSセクターコストに関連するネットワークアクセス料 に関するものです(USD 174,829)。


被控訴人(税務当局)の主張

被控訴人は、プラスの税務調整を行った理由として以下を挙げています。

  1. 調査時の更正の根拠について

    a. 被控訴人は、この費用を信頼できないと判断しました。加えて、この費用は前年度には計上されていませんでした。

    b. クロージング・カンファレンス(最終協議)の場において、控訴人は Network Access Fee(NAF)の計算を詳細に証明することができませんでした。

    c. 関連会社取引に係る費用計算を予算や売上高を基に算定し、それをサービス受益側に負担させるのは適切ではないと考えました。調査官は、関連会社が提供するサービスについてはコスト・プラス法を用いるべきであると主張しました。つまり、本来であればサービス提供者が実際に負担した費用と、そこに加算されるべき利益マージンが存在するはずだという見解です。

    d. 控訴人の組織体制はすでに十分整備されており、自社で業務を遂行し、機能を果たすことが可能であると判断されました。さらに、納税者は以前からインドネシア国内で安定した顧客基盤をもとにラボサービスを提供しており、市場環境を把握できているとみなされました。

    e. 控訴人は、関連会社が新規顧客開拓サービスを提供していると主張しましたが、その顧客が実際に関連会社の貢献によるものかを立証できませんでした。


  2. 異議申立調査担当官が更正を維持した理由について

    a. 職員による CCLAS 監査報告書に記載された、納税者のネットワーク利用履歴やアクセス権限の情報では、納税者が経済的利益を享受していることを示すには不十分でした。

    b. ネットワーク上で提供されるサービス内容の詳細や作業手順を説明する補足資料が存在しませんでした。

    c. 納税者の事業プロセスや業務が SGS Group Management S.A. によるネットワークに依存していることを裏付ける十分な書類はなく、また、ネットワークがマーケティング活動、業務提携、資料作成、商標保護に寄与しているという納税者の主張を示す証拠も存在しませんでした。

    d. ネットワーク提供やアクセスにより納税者が経済的利益を得ている証拠は確認できず、そのサービスが収益獲得・回収・維持に直接的に結びついていることを示す証明も存在しませんでした。


  3. 「異議申立調査結果通知書」に基づき、控訴人の異議は棄却されました。その理由は以下のとおりです。

    ・調査手続は現行規定に従って実施されていること。

    ・調査官による更正は、十分な証拠に基づき、かつ現行規定に沿って行われていること。

    ・よって、被控訴人による更正は維持され、控訴人の異議申立は退けられました。


控訴人(納税者)の主張

控訴人は、被控訴人による更正に同意できないとして、以下の理由を述べています。


A. 費用の存在の立証について調査および異議申立の過程において、控訴人は SGS Group Management S.A.(SGS GM)との間で締結した「商標・ネットワーク・技術・管理に関するライセンス契約」(License Agreement for Trademark, Network, Technical, and Administrative、2012年1月1日付、期間10年間有効)の契約書を提示しました。


この契約に基づき、SGS セクターコスト ― ネットワークアクセス料(Network Access Fee, NAF)の算定は、第9条の「補償(Compensation)」に従っており、各暦年に第三者から得られた収入の8%とされています。

SGS コストの記録は、商標・ネットワーク・技術・管理を含むネットワークアクセス料の支払いに関連しています。


また、この契約では、SGS GM が控訴人に対して SGS ネットワークへの非独占的なアクセス権を付与することが明記されています。ここで SGS GM は、全事業の拡大・促進、収益性の向上、グループ文化の浸透、そしてグループ内外の価値創出を可能にする環境の構築といった一連のサービスを提供することになっています。


控訴人が SGS Group Management S.A.(SGS GM)に対して支払ったネットワークアクセス料は、この契約に基づき、商標・ネットワーク・技術・管理を含むサービスを顧客に提供するために SGS ネットワークへのアクセス権が付与されていることを根拠としています。


B. 控訴人が受けた便益の立証について

a. 控訴人が SGS セクターコスト ― ネットワークアクセス料を支払ったことによって得られた便益は以下のとおりです。


  • SGS 商標およびブランドの開発・維持・保護

  • 事業活動を遂行するためのベストプラクティスへのアクセス

  • 認証・認可の実務や手続きの開発

  • 事業運営コスト削減のためのノウハウ

  • 新たなサービス事業のビジネスチャンスの開拓

  • バックオフィスの手続き・プロセスの開発・維持と、それを支援するベストプラクティスおよびツールの利用

  • 人材開発のための仕組みの構築

  • 集中購買機能の活用

  • 情報通信システムの導入およびサポート

これらの便益の内容や裏付け資料は、次の各点で示されています。


b. 控訴人が SGS GM に支払った費用に関する裏付け資料のひとつは、ラボサービスの実施手順に関する「Analytical Services」というマニュアル文書です。この文書では SGS Group が分析サービスを提供する上での能力が詳細に説明されており、グループ各社のニーズに最適な分析手法を選択できるように設計されています。

このようなマニュアルは、SGS Group のサービスが標準化され、品質が保証されていることを確実にするために不可欠です。文書は SGS の顧客満足への取り組みと、全顧客に一貫したサービス品質を提供する姿勢を示すものです。この「Analytical Services」の文書は異議申立の過程で提出済みです。

さらに控訴人が受けた便益のひとつとして、マーケティング活動や業務提携の提案があり、そこには販促資料の作成も含まれています。これにより、控訴人の会社がグローバルなネットワークと影響力を持つ企業であることを示すことができました。具体的には、販促資料の例や、グループの公式ウェブサイト(www.sgs.com)に控訴人の名称が掲載されている例があり、これらは異議申立の過程で提出されています。


c. SGS ネットワークアクセスによる便益は、控訴人のスタッフが職務に応じて限定的な権限で利用できる SGS Intranet SharePoint の使用にも表れています。このイントラネットの画面表示も異議申立の過程で提出されています。


d. 控訴人は、長期契約の獲得において SGS ネットワークの役割を立証しています。その証拠が、PT Pamapersada Nusantara と SGS Kazakhstan を経由して締結されたマネジメントおよびアッセイサービスに関する契約書 No. M002-17 SGS です。この文書も異議申立の過程で提出済みです。


e. 控訴人は 1998 年以来、SGS グループの全地球化学ラボに共通の標準である LIMS(Laboratory Information Management System)CCLAS を利用しています。このシステムは、顧客データの記録、サンプルや作業の受付、分析機器とのネットワーク接続によるデータ取得、監査、品質保証/品質管理、業務の検証、レポート作成、請求、そして主要業績指標の管理にまで活用されています。控訴人は、この LIMS CCLAS の利用フローを異議申立において提出済みです。

控訴人のラボはグループ標準である LIMS CCLAS を使用しており、鉱物分析を提供する研究・分析機関として、同社の事業の中核を担っています。したがって、SGS ネットワークから得られる便益は実務において明確かつ重要なものです。


f. 控訴人は、SGS ネットワークの利用実績を示すものとして「CCLAS Audit by Staff Report」というログイン履歴を提示しました。これは控訴人の社員が SGS ネットワークを実際に利用して事業を遂行していたことを示す証拠です。このログは 2020年2月12日の異議申立審査において議事録の添付資料として提出されました。

このログによって、控訴人のラボ部門の社員がユーザーとして LIMS CCLAS を使用していたことが確認できます。社員の氏名や役職を裏付ける証拠としては、控訴人が提出した「1721-A1」があり、これも異議申立過程で提示されています。


C. 移転価格文書が示す「取引は独立企業間原則に適合している」ことについて


a. 控訴人は、本件取引に関連する関連者間取引の適正性を検証するため、移転価格文書(Transfer Pricing Documentation)を作成しました。その検証結果によれば、SGS セクターコスト ― ネットワークアクセス料の支払いに関する取引は、独立企業間原則に則り、妥当かつ通常の商取引の範囲内であることが確認されています。


b. これに対し、被控訴人(税務当局)は、控訴人が用いた取引の独立性を検証する方法自体に異議を唱え、修正を行いました。しかし、控訴人は調査過程で提出した移転価格文書において、CUP 法(Comparable Uncontrolled Price:独立価格比準法)が本件取引に最も適切な移転価格算定手法であると説明しています。その理由は、SGS Group Management S.A. のネットワークを通じて提供される知的財産やサービスの範囲が、一般的にフランチャイズ契約の下で提供される知的財産やサービスと類似しているためです。


c. 控訴人が SGS グループとの間で行った取引の内容や、そこで受けた知的財産・サービスの説明と分析については、すでに調査過程で移転価格文書を通じて提出済みです。


d. 一方で、被控訴人は、課税当局の規則である税務総局規則 No. PER-22/PJ/2013 に定められている「比較可能性分析」に基づく価格の妥当性検証を行っていません。


e. さらに、財務大臣規則 No. 17/PMK.03/2013(後に PMK No. 184/PMK.03/2015 によって改正)第6条第1項には、「納税義務の履行状況を確認するための調査は、調査基準に従って実施しなければならない」と規定されています。

また、国政一般原則(AUPB)に関しては、行政法(Law No.30/2014)第52条第1項において、行政上の決定(Surat Ketetapan Pajak 等)が有効と認められるための条件が示されています。すなわち、a. 権限ある官庁によって定められたものであることb. 適切な手続きに従って作成されていることc. 決定の対象に適合する実質的な内容であること

そして第56条第2項には、「第52条第1項 b および c に示される条件を満たさない決定は、無効または取り消し可能な決定である」と規定されています。


f. 以上の規定に照らすと、被控訴人が税務総局規則 No. PER-22/PJ/2013 に基づき定められた調査手続きを遵守していないことから、課税決定通知書(SKP)や異議決定書として発せられた決定は無効であり、法的に取り消されるべきです。

したがって、控訴人の説明および提出済みの証拠に基づけば、被控訴人が行った 174,820米ドルの正の財務調整(課税所得増額)は取り消されるべきです。


裁判官団の判断

裁判官団は、控訴人(納税者)の主張を全面的に認める判断を下しました。

争点の内容

争点金額(USD)

維持(USD)

取消(USD)

財務調整による課税所得の増額

174,829

0

174,829

結論

PT SGS Indo Assay Laboratories が国外関連会社に支払った無形サービス(商標、ネットワーク、技術的・管理的サービス)に関する課税争訟は、納税者側が全面的に勝訴しました。裁判所は、当該費用が実際の経済的利益によって裏付けられており、かつ移転価格の独立企業間原則に適合していると認めました。その結果、税務当局による 174,829 米ドルの課税所得増額(財務調整)は全額取り消されました。


本判決は、移転価格に関する争訟において、契約書、ローカルファイル(移転価格文書)、そして実際のサービスによる利益を示す証拠が、税務裁判所での有効な防御手段となり得ることを示しています。インドネシアは民法体系を採用しており判例拘束の原則は存在しませんが、それでも本件は、多国籍企業、特に関連会社間でサービス取引を行っている企業にとって実務上の有益な参考事例となります。


重要な教訓

移転価格紛争においては、強固なドキュメンテーション、サービスの実質的利益を示す証拠、そして調査手続への適正な対応が極めて重要であるという点です。

コメント


bottom of page