【インドネシア移転価格裁判】Single Year分析を否認、Isuzu Indonesiaが全面勝訴
- 2 日前
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今回は、インドネシアの自動車部品メーカーである PT Mesin Isuzu Indonesia に対して、税務当局が行った移転価格税制上の「売上収益修正」をめぐる裁判例について解説します。
争点となったのは、2019年度の関連者間取引が「独立企業間価格(アームズ・レングス)」に沿っているかどうかです。税務当局は「利益率が低すぎる」と判断し、Rp7,557,605,538の所得増額修正を行いましたが、最終的に租税裁判所はこの修正を認めませんでした。
概要
税務当局は、PT Mesin Isuzu Indonesia の2019年度の利益率について、関連会社との取引によって利益が海外へ移転されている可能性があると判断しました。
そのため、TNMM(取引単位営業利益法)を用いて移転価格分析を実施し、会社の利益率を第三者企業と比較しました。ここで使われた利益指標が「NCPM(正味原価加算利益率)」です。簡単に言えば、「製造コストに対してどれだけ利益を上げているか」を見る指標です。
税務当局の分析では、PT Mesin Isuzu Indonesia の利益率が0.83%、比較対象企業の中央値が2.03%となり、会社の利益率が低すぎると判断されました。その結果、「本来もっと利益が出ているべき」「売上が過少計上されている」として、Rp7,557,605,538の所得修正が行われました。
修正内容
項目 | 異議決定額 | 申告額 | 修正額 |
売上収益修正 | Rp644,672,471,564 | Rp637,114,866,026 | Rp7,557,605,538 |
争点
争点は主に次の2つでした。
1.比較対象企業の選び方
税務当局と納税者側で、どの企業を比較対象にするべきかについて意見が対立しました。
2.単年データか複数年データか
税務当局は2019年単年データを使用しました。一方、納税者側は2016〜2018年の複数年データを使うべきと主張しました。これは移転価格実務では非常に重要な論点です。単年だけでは一時的な景気変動や特殊事情の影響を受ける可能性があるためです。
税務当局の主張
税務当局は、納税者が選定した比較対象企業のうち、以下の2社を否認しました。
① Chiew Chan Industry を否認
理由は、事業情報・財務情報が確認できないというものでした。税務当局が独自検索を行ったところ、納税者側・税務当局側いずれの検索結果にも十分な情報が表示されなかったとされました。そのため、比較可能性が不十分として除外されました。また、「過去年度で使用していたから今年も使える」という考え方も認めませんでした。
② Mitsuba Corporation を否認
Mitsuba Corporation が否認された理由は、R&D(研究開発)機能を持っていると税務当局が判断したためです。税務当局によると、売上高に対するR&D費用比率は4.71%でした。税務当局は、R&D費用が売上高の3%を超える企業は、単純な受託製造会社とは機能が異なると考えました。一方、PT Mesin Isuzu Indonesia は顧客仕様に従って製造するコントラクト・マニュファクチャラーであり、自社で研究開発を行っていないとされました。そのため税務当局は、「機能が違う会社は比較対象にならない」と判断しました。
税務当局が追加した比較対象企業
税務当局は代わりに以下の2社を追加しました。
・Bangkok Eagle Wings Co., Ltd.
・Woosu AMS Co., Ltd.
税務当局は、ウェブサイト調査の結果、製品・企業機能が類似していると主張しました。
税務当局の利益率分析
税務当局は2019年単年データを使用しました。比較対象企業の四分位レンジは以下のとおりです。
四分位 | 利益率 |
第1四分位 | 1.63% |
中央値(Q2) | 2.03% |
第3四分位 | 3.21% |
一方、PT Mesin Isuzu Indonesia の利益率は0.83%でした。そのため税務当局は、「会社の利益率はレンジ外、少なくとも中央値2.03%程度の利益は必要」と判断し、売上をRp7,557,605,538増額しました。
納税者(PT Mesin Isuzu Indonesia)側の反論
納税者側は、この修正に対して異議申立を行いました。主張は大きく3つあります。
① 比較対象企業の選定が不適切
納税者側は、「税務当局が追加した2社は比較可能性が低い」「逆に除外された2社は比較可能性が高い」と主張しました。
Chiew Chan Industry を採用すべき理由
納税者側によれば、製品内容・企業機能が類似しており、過年度にも使用実績があります。さらに、R&D費用比率は0%であり、研究開発機能を持たないという点でも納税者と一致していると主張しました。
Mitsuba Corporation を採用すべき理由
納税者側は、税務当局が連結財務諸表を使用したことが問題と主張しました。納税者側が使用したのは非連結財務諸表であり、その場合 Mitsuba Corporation 単体のR&D比率は0%とされました。納税者側は「連結財務諸表には機能の異なる子会社も含まれる。本来比較すべきなのは会社単体であり、R&D企業と判断したのは誤り」と反論しました。
Bangkok Eagle Wings を除外すべき理由
納税者側は、同社は企業グループの一員であり独立性が低いと主張しました。移転価格分析では独立企業同士の比較が重要になるため、グループ色が強い会社は信頼性に問題があるという考え方です。
Woosu AMS を除外すべき理由
納税者側によると、Woosu AMS はR&D機能を持つ会社、すなわち自社開発を行う企業です。一方、PT Mesin Isuzu Indonesia は顧客仕様通りに製造するだけの受託製造会社です。そのため納税者側は、「機能が異なる以上、比較対象にすべきではない」と主張しました。
② 複数年分析
納税者側は2016〜2018年の複数年データを使用しました。その結果、比較対象企業の四分位レンジは以下となりました。
四分位 | 利益率 |
第1四分位 | 0.30% |
中央値 | 1.32% |
第3四分位 | 1.47% |
PT Mesin Isuzu Indonesia の利益率0.83%は、このレンジ内に収まると主張しました。
③ セグメント別分析
納税者側はさらに、国内販売と輸出販売を分けて分析しました。
2019年度NCP分析
項目 | 輸出販売 | 国内販売 | 合計 |
売上高 | Rp231,905,572,844 | Rp405,209,293,182 | Rp637,114,866,026 |
売上原価 | Rp217,409,864,408 | Rp381,999,141,851 | Rp599,409,006,259 |
売上総利益 | Rp14,495,708,436 | Rp23,210,151,331 | Rp37,705,859,767 |
営業費用 | Rp11,794,258,628 | Rp20,649,462,898 | Rp32,443,721,526 |
営業利益 | Rp2,701,449,808 | Rp2,560,688,433 | Rp5,262,138,241 |
NCP | 1.18% | 0.64% | 0.83% |
この分析から納税者側は、「輸出でも国内でも一定の利益を確保しており、海外へ利益を不当に移転しているわけではない」と主張しました。
株主構成(2019年度)
株主 | 持株比率 |
Isuzu Motors Limited | 36.66% |
PT Isuzu Astra Motor Indonesia | 33.70% |
Isuzu Motors Asia Limited | 29.64% |
裁判所の判断
租税裁判所は最終的に、税務当局の修正を全面的に取り消しました。
裁判所が重視したポイント
① 税務当局の比較可能性分析が不十分
税務当局が追加・除外した比較対象企業について、機能比較・独立性・R&D機能などの検討が十分ではないと判断されました。
② 複数年データの方が適切
裁判所は、単年データより複数年データの方が実態を反映するという納税者側の主張を重視しました。
③ 利益率は適正範囲内
納税者側の分析によれば、利益率0.83%は四分位レンジ内でした。そのため裁判所は、独立企業間価格に適合していると判断しました。
最終結論
裁判所は、Rp7,557,605,538の純所得修正を認めませんでした。
争点 | 争点額 | 維持額 | 否認額 |
純所得修正 | Rp7,557,605,538 | 0 | Rp7,557,605,538 |
つまり、税務当局の移転価格修正は無効と判断されたことになります。
この裁判例の重要ポイント
① 比較対象企業の選定は極めて重要
移転価格分析では、「どの会社と比較するか」によって結論が大きく変わります。特に、R&D機能の有無・独立性・製品類似性は非常に重要です。
② 連結財務諸表か非連結財務諸表かで結論が変わる
本件では、Mitsuba Corporation のR&D比率について、連結財務諸表と非連結財務諸表のどちらを使うかが大きな争点になりました。これは実務上も非常に頻繁に問題となります。
③ 単年分析より複数年分析が有利になる場合がある
税務当局は2019年単年で分析しましたが、納税者側は複数年平均を用いることで、利益率が適正レンジ内であることを示しました。移転価格実務では、景気変動・特殊事情・一時的な収益悪化を平準化できるため、複数年分析が重要になるケースがあります。




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