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税務当局の更正額は約90%取り消し!移転価格税制における重要判例を解説

  • 3 日前
  • 読了時間: 8分

今回は、移転価格税制(Transfer Pricing)に関する非常に示唆に富む税務裁判所判決をご紹介します。本件は、PT Panasonic Gobel Life Solutions Manufacturing Indonesia(PESGMFID)(旧社名:PT Panasonic Gobel Eco Solutions Manufacturing Indonesia(PESLID)の2015年度法人所得税を巡る税務紛争です。


結論

税務裁判所は納税者・税務当局双方の主張を一部認める判断を示しました。税務当局が主張した移転価格更正額21,515,056米ドルは大幅に見直され、最終的に2,116,961米ドルのみが維持され、約90%に当たる19,398,095米ドルは取り消されました。

また、裁判所は、複数年度データ(Multiple Years)の採用については納税者の主張を全面的に認める一方、比較対象企業の選定については税務当局の手法を妥当と判断しました。さらに、合併に伴う退職金や工場閉鎖による生産停止期間などの特別費用(Extraordinary Cost)については、裁判所自らが合理的な調整を行った上で利益率を再計算し、更正額を大幅に減額しています。


インドネシアは判例拘束性を採用する法体系(コモンロー)ではなく、成文法を重視する大陸法(Civil Law)を採用しています。しかし、本件で争われた論点は、多くの日系製造業が実際に直面する典型的な移転価格問題であり、実務上非常に参考となる判決です。

また、移転価格税制に関する紛争では、「納税者の全面勝訴」または「税務当局の全面勝訴」という結論になることは少なく、裁判所が双方の主張を踏まえて比較対象や利益率、各種調整項目を再計算し、合理的な金額へ修正するケースが多く見られます。本件は、その代表例といえるでしょう。


本件では、主に以下の3つの論点が争われました。

  1. 比較対象企業の選定方法

  2. 単年度データ(Single Year)を用いるべきか、それとも複数年度データ(Multiple Years)を用いるべきか

  3. 合併(Merger)に伴う費用などの特別損失(Extraordinary Cost)について調整を行う必要があるか


判決概要

判決番号PUT-001381.15/2019/PP/M.XB(2023年)

控訴人PT Panasonic Gobel Life Solutions Manufacturing Indonesia(PESGMFID)(旧社名:PT Panasonic Gobel Eco Solutions Manufacturing Indonesia(PESLID))

被控訴人インドネシア税務総局(Direktur Jenderal Pajak)


争点

本件では次の事項が争点となりました。

  1. 比較対象企業の抽出におけるフィルタリング方法の違いにより、採用された比較対象企業が異なったこと。

  2. 税務当局は単年度データ(Single Year)を採用した一方、納税者は複数年度データ(Multiple Years)を採用したこと。

  3. 税務当局は合併費用(Merger Cost)の調整を認めなかった一方、納税者は合併費用を調整対象として利益率を算定したこと。

  4. 両者が採用した比較対象企業には次の違いがありました。

項目

税務当局

納税者

使用年度

Single Year(2015年)

Multiple Years(2011~2015年)

データベース

Orbis

Orianaおよびインターネット

抽出方法

マニュアルレビュー

売上高50百万USD以上など定量基準による除外

比較対象企業数

6社

7社


税務当局の比較対象企業

  • Woore Lighting Co., Ltd

  • Stanley Electric Co., Ltd

  • Everlight Electronics Co., Ltd

  • Foshan Electrical and Lighting Co., Ltd

  • Audix Corporation

  • Kenmos Technology Co., Ltd


納税者の比較対象企業

  • Woore Lighting Co., Ltd

  • Meiko Electronics Co., Ltd

  • CMK Corporation

  • Iwasaki Electric Co., Ltd

  • Song Shang Electronics Co., Ltd

  • Edison Opto Corp

  • Haesung Digital Co., Ltd


比較対象企業の利益率

税務当局

  • 第1四分位(Q1):4.64%

  • 中央値(Median):7.03%

  • 第3四分位(Q3):8.19%

採用利益率(NCPM)7.03%

納税者利益率▲31.40%

税務当局は合併費用の調整を認めませんでした。

その結果、

「納税者の利益率は適正レンジを下回る」

と判断しました。


納税者

  • 第1四分位:0.40%

  • 中央値:1.33%

  • 第3四分位:2.53%

採用利益率(NCPM)

1.33%

納税者利益率

0.64%

納税者は合併費用の調整を実施しており、

「利益率は適正レンジ内にある」

と主張しました。


売上高の争点

項目

納税者

税務当局

差額

売上高

38,399,894 USD

59,914,950 USD

21,515,056 USD

この21,515,056米ドルが移転価格更正額として争われました。


税務当局(被控訴人)の主張

① 比較対象企業の選定

税務当局は、比較対象企業の抽出方法の違いについて、特に次の点が重要であると主張しました。

  • 研究開発費(R&D費用)の割合が3%未満である企業のみを採用したこと。

  • 2015年度に赤字となった企業は比較対象から除外したこと。


② 単年度データ(Single Year)の採用

税務当局は、複数年度データ(Multiple Years)は特殊事情がある場合のみ使用すべきであると主張しました。

例えば、

  • 赤字年度がある場合

  • 赤字の原因が過年度取引に起因する場合

  • 製品ライフサイクル末期の影響がある場合

  • 長期契約の影響を分析する必要がある場合

などに限り、複数年度データを利用すべきであると説明しました。


③ 合併費用の調整

税務当局は、納税者が主張する退職金費用(Severance Payment)を移転価格分析から除外しませんでした。

その理由は、

納税者が

  • 合併に起因する収益・費用の詳細

  • どの費用が合併費用に該当するか

について十分な資料を提出していなかったためです。

また、納税者が実施したような、合併の影響を受けた期間について利益計算を調整する方法についても認めませんでした。


控訴人(納税者)の主張

① 比較対象企業の選定について

控訴人は、税務当局が採用した6社の比較対象企業のうち4社について、比較対象として適切ではないと主張しました。その理由は以下のとおりです。

  • 当該企業の機能が納税者と異なっていること(例えば、納税者は製造業である一方、比較対象企業は販売業者である場合)。

  • 当該企業が納税者とは大きく異なる業界で事業を行っていること。

  • その他、当該企業を比較対象として使用することが信頼できない(reliableではない)事情が存在すること。


② Multiple Years(複数年度データ)の採用

控訴人は2011年~2015年の複数年度データ(Multiple Years)を使用しましたが、税務当局は2015年度のみのSingle Yearを採用しました。

控訴人は次のように主張しました。

製造業における移転価格分析では、単年度データのみを使用することは適切ではありません。

納税者自身も比較対象企業も利益率は毎年大きく変動しており、1年間だけの財務データでは利益率が歪められ、正確な比較分析ができなくなるためです。


③ 2015年に発生した特殊事情

控訴人は、2015年には照明業界全体で事業環境が大きく変化していたと説明しました。

具体的には、

  • 従来型照明(Conventional Lamp)のライフサイクルが終盤を迎え、LED照明への技術転換が進んでいたこと。

  • 輸出市場で競争力を失った従来型照明製品の製造を中止したこと。

  • 効率化と事業再編を目的として、PESLIDとの合併(Merger)を実施したこと。その結果、多額の費用が発生し、通常の経営状態ではなくなっていたこと。

  • 輸出中心だった販売が国内販売中心へ移行したこと。

  • 2015年の売上高は前年と比較して49.09%減少したこと。

  • PasuruanおよびYogyakartaにおけるGE社・Philips社の工場閉鎖、さらに控訴人自身のCikarang工場閉鎖は、照明産業全体における技術革新の影響を示していること。


④ 合併による影響

裁判で明らかになった事実として、

2015年度、控訴人は約6か月間、生産活動を停止していました。

また、

  • 多額の退職金(Operating Expense全体の63%)を支払い、

  • PT Panasonic Lighting Indonesiaとの合併を実施 

していました。

そのため、この期間の利益率は通常の事業活動を反映したものではないと主張しました。


税務裁判所の判断

① 比較対象企業

裁判所は、

税務当局が6社の比較対象企業を選定した方法については妥当であると判断しました。


② Multiple Yearsの採用

一方で、

本件ではMultiple Years(複数年度データ)を使用した方が、

より信頼性が高く、より正確な比較分析になると判断しました。

この点については納税者の主張を全面的に認めています。


③ Extraordinary Cost(特別費用)の調整

裁判所は、

税務当局自身が第6回および第7回口頭審理に提出した説明書において、

納税者が行った2つの調整を計算に取り入れていたことを確認しました。

そのため、

裁判所は、

税務当局も実質的にはこれらの調整を認めていると判断しました。

納税者が2015年度TPレポートで実施した調整は以下の2点です。

  • 特別損失である退職金費用(Severance Payment)

    11,649,945USD 

  • 合併および工場閉鎖により事業が停止した6か月間の財務データの除外


控訴人は、

2015年7月から12月までの6か月間について、

Cikarang工場閉鎖およびPasuruan工場への設備・機械移設により、

照明器具および電子安定器(Electronic Ballast)の生産が停止していたため、

この期間の財務データをTP分析から除外しました。

裁判所は、

この調整は通常の事業活動を反映しない期間を除外したものであり、

比較対象企業との比較可能性を確保するため適切な調整であると判断しました。


裁判所によるNCPM計算

項目

金額(USD)

売上高

24,504,796

売上原価

21,260,793

売上総利益

3,244,003

営業費用

15,269,300

退職金調整

11,649,945

営業利益

▲375,352

総コスト

24,880,148

NCPM

▲1.53%


裁判所の最終判断

Multiple Yearsによる比較対象企業の利益率は以下のとおりでした。

比較対象企業

NCPM

Woore Lighting

1.51%

Stanley Electric

12.31%

Everlight Electronics

11.60%

Foshan Electrical and Lighting

8.93%

Audix Corporation

5.06%

Kenmos Technology

0.82%

四分位範囲は、

  • 第1四分位(Q1) 2.40%

  • 中央値(Median) 7.00%

  • 第3四分位(Q3) 10.93%

となりました。

控訴人のNCPMは

▲1.53%

であり、

退職金費用調整および6か月間の財務データ調整を実施しても、

依然として第1四分位(Q1)を下回ると判断されました。


移転価格更正額の再計算

項目

金額(USD)

売上高

24,504,796

売上原価

21,260,793

売上総利益

3,244,003

その他営業費用

15,269,299

退職金費用

11,649,945

営業利益

▲375,352

総コスト

24,880,147

控訴人NCPM

▲1.53%

比較対象中央値

7.00%

更正後売上高

26,621,757

移転価格更正額

2,116,961


裁判所の結論

税務当局が主張した移転価格更正額は、

21,515,056USD

でした。

しかし裁判所は、

そのうち

2,116,961USDのみを維持し、

19,398,095USDについては取り消しました。


法人税計算

その結果、

裁判所が認定した課税所得は以下のとおりとなりました。

項目

金額(USD)

売上高

40,516,855

売上原価

▲36,063,492

その他営業費用

▲19,916,093

営業利益

▲15,462,730

営業外損益

▲56,250

当期純利益(損失)

▲15,518,980

税務調整

1,807,175

課税所得

▲13,711,805

法人税計算では、

項目

金額(USD)

課税所得

▲13,711,805

法人税額

0

税額控除

1,220,435

過不足税額

▲1,220,435

行政制裁金

0

還付税額

1,220,435

となりました。


再審(Peninjauan Kembali)

その後、

PT Panasonic Gobel Life Solutions Manufacturing Indonesia(旧PESLID)は、

最高裁判所へ再審(Peninjauan Kembali)を申し立てました。

事件番号3906/B/PK/Pjk/2024

しかし、

最高裁判所は、

再審請求を棄却し、

税務裁判所の判断を維持しました。


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